アドラー心理学の目的論、その例と使い方
みなさんはアルフレッド・アドラーという精神科医・心理学者をご存知でしょうか?
アドラーが創始したアドラー心理学は、「承認欲求を捨てる」「トラウマを否定する」など、これまで知られてきたフロイトやユングなどの名立たる心理学者とは意に反するものです。
しかし、その考え方は人生観が変わるといわれるほどの衝撃といわれ、2013年に発売されたアドラー心理学が題材の“嫌われる勇気”がベストセラーになり、広く一般に知れ渡るようになりました。
アドラー心理学で「目的論」というものがあるのですが、比較的わかりやすく納得しやすい論理ですので今回は目的論に絞って説明していきたいと思います。
フロイトの原因論とアドラーの目的論
嫌われる勇気 Amazon
心理学者といえばジークムント・フロイトが有名です。
余談ですが、もともとアドラーとフロイトは共同研究者でした。
まずフロイトが唱える原因論から説明します。
例を用いるとわかりやすいので、「引きこもりで家を出られない少年」を例にします。
少年は自分を変えたいと思っており、家を出て学校にも通いたいと思っています。
しかし、一歩でも家を出ると、激しい動悸に襲われ、手足も震え、外に出ることができません。
よくよく少年の話を聞いてみると、少年は過去に両親から虐待を受け、愛情を知らないままに育ってきており、他者とかかわるのが怖いので外に出られないとのことでした。
フロイトは、このトラウマ(原因)があるから外に出ようとすると激しい動悸等に襲われて外に出ることができないのだと考えます。
この原因(トラウマ)があるから結果(外に出れない)があるという考えが原因論です。
次に、アドラーの目的論の考え方を説明します。
アドラーは過去の「原因」ではなく、いまの「目的」を考えます。
この少年の目的は何でしょうか?ということを考えるということです。
少年の目的は「外に出ない」ということで、その目的を達成する手段として激しい動悸等の症状を生み出していると考えるのです。
つまり、あくまで目的が先にきて、後から感情を作り出しているということです。
さらに、アドラーはトラウマを明確に否定しています。
「AというトラウマがあればBという原因が起こる」という原因論は矛盾しているのです。
なぜなら、両親に虐待を受けて引きこもる人がいれば、そうでない人もいるからです。
全ての人は、自分の経験の中からいまの目的にかなう理由を見つけ出しているだけなのです。
ここで、「なぜわざわざ外に出ないという目的があるの?」と考える人が多いでしょう。
直近の目的は「外に出ないこと」なのですが、さらに掘り下げていくと、「両親への復讐や愛情を得ること」が目的なのです。
外に出ようとすると発症する神経症のようなものがあれば、両親は心配し、大切に扱おうとする。さらに、情けない息子になることによって両親の期待への裏切りや自尊心を傷つける効果もある。
これらの目的を達成するために、外に出ると動悸等を起こすという症状を作り出しているのです。
少年本人はそんな目的意識はまるでないでしょう。しかし、少年は外に出ないことにより、論理的に考えればまったくもって無駄な目的ですが、深層心理ではその目的に見合った行動をとっているわけです。
目的論の考え方の例
- 人前に出ると赤面してしまう赤面症の少女
「赤面症があるから自分の人生うまくいかないのだ」という言い訳や、「赤面症が治ったらわたしは人前でも堂々としていられる」という可能性を残すことが目的。もし本当に赤面症が治ったら、もはや言い訳はできないし、人前で堂々とできないのは別の理由だと知ることにもなってしまう。そのため、「赤面症」を必要としている。
- 子供がグレて不良になった
子供がグレたのには目的がある。両親を困らせるという目的。両親のしつけが厳しすぎて反発した結果だと考える人もいるだろうが、すべての子供が厳しいしつけで不良になってしまうわけではない。つまり、両親を困らせるという目的が先にあり、しつけが厳しかったという過去を意味付けしているにすぎない。
- やる気がでない
「やる気を出せば自分はできるのだ」という可能性のなかで生きている。もしやる気が出てもできなかったら?この可能性を残すという目的で、やる気を出さないという結果を生んでいる。
- ついカッとなって相手を殴った少年
「カッとなって(怒り)⇒相手を殴った」のではなく、相手を殴るために怒りの感情を生み出した。相手を殴るという目的が先にあり、目的達成のためにカッとなるという感情を作っている。なぜなら、冷静では人を殴ることはできないから、怒るという感情が必要だったため。
まとめ
どうでしょうか?
おそらく大半の人は今まで考えたこともない理論だと思います。
この理論を知っただけで、自分の深層心理を知ったような気持ちになり、自分に「言い訳」をすることが減るはずです。
みなさんもこれからの人生で、目的論のような考え方を取り入れてみてはどうでしょうか?
きっとなにかが変わるはずです。
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