カーシェアリングは自動車メーカーを脅かすのか?
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最終更新日:2022/09/22
マーケティング
最近カーシェアリングという言葉をよく聞きます。
カーシェアリングがあれば、わざわざ自動車を購入する必要がなくなるので、単純に考えれば自動車メーカーは売り上げが落ちます。
カーシェアリング利用者数は年々増加し、2017年で利用者数が100万人を越えました。カーシェアリング車両ステーションは全国に1万2千箇所あり、車両台数は2万4千台ほどあります。
世界的に見ても、日本のカーシェアリング普及率は人口比率でアメリカを越えました。
利用者が100万人もいるのに、車両台数が2万台ちょっとというのは、少ないような気もしますが、この100万人は本来カーシェアリングが無ければ、自動車を購入したであろう人達なのでしょうか?
はたして、カーシェアリング業界は、自動車メーカーにとって敵なのか?それとも仲間なのか?
目次
カーシェアリングのしくみ
カーシェアリングのモットーは、自動車が動いていない時間の有効活用です。
日本には、動いている車より、自宅の車庫などで止まっている車の数のほうが圧倒的に多く、実に約96%は止まっている車と言われています。
それってもったいないよね。という理屈から、有効活用しようとしてカーシェアリングというサービスが始まりました。
カーシェアリング業界No.1はパーク24(株)グループ傘下のタイムズ24(株)です。
個人の自動車を貸し出すわけではなく、全国にあるタイムズのパーキングに専用車両を設置し、事前に予約をしたユーザーが利用をするというシステムです。
カーシェアリングは、レンタカーと違い、利用後の給油は義務ではありません。あくまで「シェア」なので、次の人のことを考えて給油をします(給油をすれば特典もつく)。
清掃もすれば特典が付きますが、義務ではないので、利用した車両がものすごく汚いなんてこともあり得ます。
ガソリンスタンドでの給油や清掃は、車に備えてつけてある専用のクレジットカードで支払います。
そして返却は、借りた場所に返します。乗り捨てや、別のタイムズパーキングへの返却はできません。
カーシェアリングの利用ユーザー層は?
カーシェアリングの主な利用ユーザー層は、20代30代の若者です。彼らは、いわゆる「クルマ離れした」と言わてている若者たちです。
そして、利用者のほとんどは大都市圏で、駐車場を借りられないぐらい地価が高いところに密集しています。
彼らは、カーシェアリングがなければ自家用車を買っていたのかというと、それはないでしょう。都市に住む人は、あるていど経済的な余裕が無ければ自家用車を手に入れることはできません。あくまで、安くて便利だから使っているだけであって、もしカーシェアリングが無ければ電車やバスを利用しています。
つまり、自動車メーカーとカーシェアリング業界とで顧客の奪い合いは起きていないと考えられます。
そして、自動車が生活の要となっているような地方ではカーシェアリングは成り立ちにくいサービスです。
毎日の通勤や買い物で自家用車を利用している人が、わざわざカーシェアリングを使う可能性は低いからです。
カーシェアリング利用者は自動車購入意欲が上がる?
タイムズ24が実施したカーシェアリング利用者に対するアンケートで、カーシェアリングを利用する前より、カーシェアリングを利用した後のほうが自家用車を購入したいと思った人が増加したのです。
その傾向は特に20代の若者が顕著で、カーシェアリング利用前は、自家用車の購入意欲は50%程度だったのが、利用後は86%に上がりました。
それは、普段自動車に乗らない若者が、実際に自動車を運転することにより、車に魅力を感じたことによる結果です。実際、タイムズカープラスを退会した人の3割は自家用車を購入したことが理由だそうです。
やはり、「シェア」するよりも、「所有したい」と思う方が多いというのは共感できます。
見ず知らずの他人がベタベタ触ったハンドルなんて握りたくない、フケがたくさんついているかもしれないシートに座りたくない、などと思う人は多いはずです。まあ、こういう人はそもそもカーシェアリングを利用しないとして、やはり、一度自動車の楽しさを味わうと常に好きな時に乗れるようになりたいと思うのが普通なので、シェアでは物足りないのでしょう。
カーシェアリングと自動車メーカーの共存の未来
カーシェアリングは素晴らしいシステムです。利用者数も年々増加はしていますが、いまひとつキャズムを越えられていないような気がします。
カーシェアリング会員の100万人は日本人の人口の1%未満なので、今後カーシェアリング会員が200万人になろうと300万人になろうと、自動車保有率約50%(世帯あたりだと100%を超える)と比べると自動車メーカーにとってはたいした脅威ではありません。
そもそもカーシェアリング会員は、「クルマを所有できない事情がある人」が多く占めていて、自動車購入層ではない人達です。よって、パイの奪い合いにはならないのです。
以上の理由から、カーシェアリングが自動車メーカーを脅かす存在にはならないと思いますが、メーカー自身はカーシェアリング業界の動向については注意深く観察しているようです。
自動車メーカーは電気自動車(EV)の開発に力を入れています。つい最近ではSUBARU(株)も既存の車種でEVを選択できるようにするという考えを示しました。
EVを取り入れると、カーシェアリングにおいてもメリットがあります。
カーシェアリングは利用ユーザーが給油しなくてはならないのですが、EVであれば、タイムズのパーキングに充電スタンドを設置するだけで給油の不便さが解消されます。全国的にそういう流れになれば、EVを取り入れていない自動車メーカーは取り残されてしまうので研究開発は必須なのでしょう。
EVはガソリンの給油のようにガチガチの消防法が適用されないので、給油時に従業員がいらず(セルフスタンドでも従業員が給油許可のボタン押さないとガソリンが出ない)、様々な商業施設に設置できます。
カーシェアリングもタイムズパーキング以外で商業施設などに設けたり、さらに、道路脇の路上駐車パーキングメーターのようなところに乗り捨てられたりと、借りた場所以外で返却できるようになればもっと利用者が増えるはずです。
カーシェアリングが生活にとって当たり前になれば、自動車を欲しいと思う人が減ることはないと思いますが、欲しい車種の動向は変化するでしょう。
いままでは、家族全員が乗れるミニバンが必須だった世帯が、「家族全員が乗るときはカーシェアリングで、普段は通勤用に使うから自家用車は2人乗りの軽のスポーツタイプで」などという形です。
このように、自動車購入ユーザーの欲しい車種の変化を自動車メーカーは注意深く観察し、時代にあった車づくりをしていくのでしょう。
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